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日本は水に恵まれている ~美肌と水の関係~

監修:皮膚科専門医 岩本麻奈先生

水源が豊かで軟水の国

美肌と水は切っても切れない関係にあります。
私たちが日々飲料や洗顔に使っている水には、雨水や雪解け水が大地にしみこみ川となって流れていく過程で、周囲の地層などの成分が少しずつ溶け込んでいます。そのため、国や地域によって水の性質が違ってくるのです。
欧米の水は「硬水」というのは、みなさん耳にしたことがあるでしょう。硬水とは、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどのミネラル成分を多く含む水のこと。口あたりが重く、石けんが泡立ちにくくて肌に刺激を与えますが、肉食中心でミネラルが不足しがちな欧米人の栄養バランスを整えるのにひと役買っています。
欧米の地下水は、炭酸カルシウムを多く含む密度の高い石灰岩の地層をゆっくりと時間をかけて通り抜け、ミネラル分を吸収していきます。川も広くて長いことから、水がゆっくりと流れるので、ミネラルがたくさん溶け込んだ硬度の高い水となるのです。

日本の水の多くは「軟水」です。軟水はカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどのミネラル分の少ない水のこと。口あたり、肌あたりがよく、石けんも泡立ちやすいのですが、反面ミネラルなどの栄養価は少なくなっています。
年間降水量約1800mと、フランスの約3倍の多雨地帯である日本は、密度が低くて水を通しやすい火山灰の地層が多く、地中にしみこんだ水が短い期間で地表に出てきてしまいます。また、川の水も土地が狭く傾斜が急なために、あっという間に流れてしまい、ミネラル分をあまり含まない軟水が優勢になるのです。
このように、飲水する場合での栄養価では硬水に劣るものの、直接触れる場合での肌へのやさしさはの点からは軟水に軍配があがります。

フランス女性の肌の角質層には、硬水使用のためか日本女性よりも多くのカルシウムが含まれており、本来ならバリア機能を強化するはずのカルシウムが、肌の乾燥の一因となっている可能性があります。私自身、日本にいるときはオイルクレンジングで水を使ったダブル洗顔をしますが、フランスをはじめとる硬水の国に滞在する時には、ミルククレンジング→ミネラルウォータースプレーでふき取り、と水なしのダブル洗顔を実践しています。
ちなみに、フランスではスプレー式のテルマール(温泉)ウォーターが売られており、肌質や好みに応じて使い分けされています。日本にいるときは、ごく当たり前に使っていた水ですが、フランスではお金を払わなければ手に入らない貴重なものだということに、改めて気づかされました。険しい山々と急勾配の河川が生む軟水のパワーを存分に享受できる日本女性は、生まれながらに美肌を約束されているのです。

温泉で肌もリフレッシュできる!

日本の水が軟水である大きな要因は「火山灰の地層が多いから」とお話ししました。火山灰の地層ができるのは、当然ながら火山があるからです。そう、日本は火山の国。それゆえ火山性の温泉が豊富で、温泉にまつわる神話や伝説が各地に残されています。 温泉は天然のスパ・サロン。地中から湧出してくる温泉には、肌をリフレッシュしてくれるさまざまな成分が含まれており、それぞれの含有成分で泉質が決まります。軽いピーリング効果のある「弱アルカリ性単純温泉」、余分な油分を洗い流す「硫酸塩泉」、美白に効くといわれる「硫黄泉」「硫化水素型」、そして毛穴の汚れをしっかり取り除く「ナトリウムー炭酸水素塩泉」など、美肌づくりに効くといわれる温泉が日本にはたくさんあるのです。
ただし、こうした「美肌の湯」といわれる温泉には肌の油分や角質を取り除く性質があることが多く、入浴後は肌が乾燥しやすくなります。入浴後は低刺激の保湿ケアをしっかり行うこと、肌が過敏になっているときは入浴回数を減らすことを心に留めておきましょう。

一方、エビアンやコントレックスといったフランスの有名なミネラルウォーターには、温泉を源泉とするものが多くあります。こうした鉱泉を利用した医学治療を行う施設を「テルマリズム(テルマール·センター)」といいます。
日本でも温泉や鉱泉を利用した治療といわれるものはありますが、フランスでは3週間を基本とする鉱泉療法で専門の医師の診察があり、健康保険が適用されます。温泉の医学的エビデンスが証明されているのです。そこが日本と大きく異なる点です。フランスでは医師の指導のもとに飲む療法に加え、温泉水マッサージやジャグジーなどでハイドロテラピー (水中理学療法)を行います。源水の特性によって効能は異なり、ヴィッテルは消化器系、リウマチ、腎臓病、コントレックスは腎臓病、泌尿器系、アベンヌは皮膚病、エビアンは消化器系疾患、リウマチ、腎臓病などの症状改善に効果があるといわれています。
最近ではセンターの多くが、ダイエットなどを目的とした自費治療による美容コースも併設しています。ヴィッテルやヴィシー、ピレネー山系の歴史的な名所では、センターにカジノやホールを併設した施設も多く見かけます。
フランスではテルマリズムは医学治療としてもリラクゼーションとしても人気を博しているのです。

私は温泉が大好きで、趣味と仕事を兼ね、パリにいた20年間、ヨーロッパ各地に点在しているテルマリズムを訪ねて回っておりました。心身ともにリフレッシュできるのはもちろんですが、滞在できるのはがんばっても2、3日。3週間もお休みをいただくことは至難のワザです。また、医師の処方箋がないと当然ながら保険治療は受けられず、美容コースなどは価格設定も高額で、やや敷居が高いといえるでしょう。
その点、日本の温泉は日帰り施設なども豊富で、料金も安価。誰でも気軽に足を運べます。(もちろん敷居の高い高級温泉旅館もありますが)温泉医療が中心のテルマリズムとは違い、日常のなかに溶け込み、あらゆる女性たちの美肌づくりをサポートしてくれる。それが日本の温泉のありかたなのです。

 

出典:著書「日本女性のための本当のスキンケア」より(内容は掲載に際し適宜編集しております)

岩本麻奈

東京女子医科大学卒。慶應義塾大学医学部皮膚科教室の研修後、市中病院勤務を経てフランスへ。現在、フランス、日本、ASEAN諸国をベースに、人・健康、生活スタイルに関する情報を収集し、独自の視点を交えて発信している。
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